2025年06月04日
これまでの歴史
当院は私の祖父が1949年に前身の昭和医院として開業し、1952年に病院となって各時代で必要とされる医療を提供してきました。祖父の時代は、終戦直後の日本が混迷しており軍医だった祖父は何でもやっていました。お産をやったり腎臓摘出手術をやったり、必要に応じて何でも治療していたのです。父(二代目)の時代は、日本が高度成長期に入った時期と一致しています。老人医療費(当時)が無料になり医療が大病院などで臓器別に細分化された時期です。それに伴い、当院の役目は次第にプライマリ・ケア(患者さんを一人の人間としてとらえ、その人の体や心が抱える問題を総合的に診る医療)を担う方向にシフトしていったのです。私は三代目として2017年に理事長になりました。(2024年〜院長である夫が理事長も兼務)国の方針により病院の医療機能の分化が推し進められており、当院は急性期治療のみ行う病院から地域包括ケア(急性期治療後の病状が安定した患者さんに対して安心して在宅復帰できるようサポートする)を担う病院になることを選択しました。仕事に従事する中でこの医療機能が重要であることを実感しています。例えば、肺炎で入院した独居の高齢患者さんが体力の低下で外出することができなくなり生活支援が必要になった場合、すぐに退院させるのではなく多職種で生活を支援する介護サービスを構築してから退院していただきます。また、大病院で厳しい治療を受け体力が著しく低下した患者さんの転院を受け入れ、リハビリを行ったり介護サービスを構築したりします。
このように、地域の病院としてその時代に必要とされる役目を果たしてきました。
腑に落ちない三つの経験
私は20年以上ここで診療していますが、数年前に高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の患者さんに対し数値を見て薬を選択する自分に気づきました。食事療法、運動療法とは言ってもバランスの良い食事とかウオーキングとか、簡単な指導しかできないものですから患者さんも具体的にどう改善したら良いのかわからず、結果として私が薬剤の処方に頼らざるを得なくなったのです。そしてまた、患者さんも薬に頼っている。こういう状況に悶々としていました。二つ目と三つ目は精神医療に関することです。私が身体疾患で診ている患者さんでメンタルクリニックから複数の抗うつ薬や抗精神病薬を処方されている方がいます。それで良くなっているのか問うと変わらないと言うのです。そして、症状が悪化するとすぐに薬が増やされます。一時的に薬が必要になることはあっても、根本的な治療やカウンセリングを施さなければどんどん薬が増えていくのは自明の理だと思います。私は精神科医ではないので薬については何もできません。患者さんのお話をただ傾聴している自分がいました。そしてこれまでの精神医療のあり方に大打撃を受けることになった経験を紹介します。当時52歳の拒食症の女性が「咳が出ているので診てほしい」とご両親から電話をいただき訪問診療することになったのですが、その女性は7回もの医療保護入院を経験した結果、極度の医療不信に陥り、その後7年間全く医療を受けず家に閉じこもったままでした。私が初めて往診した日のことを昨日のように覚えています。全く無表情で布団の中で横たわっており起き上がることができない状態でした。咳の原因は極度の貧血による心不全とわかり、自宅で治療を行い咳は治りました。その後も高アンモニア血症による意識障害で透析が必要になったため大学病院に入院を依頼、透析を脱した後に当院に転院し治療を続けました。いつの間にか、女性は少ないながらも食べられるようになっていて、自分のことを話し笑うようになっていました。そして、今では外来に自転車で通院しています。私が一貫して心がけていたことは、自分から食の話をしないこと、一人の人間として真剣に誠実に接すること、この2点です。ですので、精神科医でない私がいつもと変わらぬ診療を行っただけで通院できるようになったため、女性が過去に受けていた精神医療は何だったのだろう?と訝しく思うのも仕方のないことだと言えるでしょう。
どれも既存の医療では解決できない問題と認識していましたが、かといってこのままではいけない、どうしたら良いのか、という腑に落ちない想いを何年間も持ち続けていました。
篠浦塾との出会い
そのような気持ちを抱き続けていたためか、ある方から篠浦先生をご紹介いただき2024年から篠浦塾で学ばせていただいています。篠浦先生の凄いところは都立駒込病院脳神経外科部長で超多忙の在職中から篠浦塾を立ち上げたところだと思います。日本のために退職後に大きなことを成し遂げようとするその気概は凄まじいものだと想像できます。私は地域医療の一翼を担う医師として自分なりに一生懸命やってきましたが、地域の課題解決に留まっているだけではいけないなと考えさせられました。しっかりと地域の課題をやっていくと日本全国にも通じることになるのだろうと思っています。
篠浦塾で学んでいるうちに、既存の医療では解決できない私が抱えている課題の打開策を得ることができました。それが『統合医療』です。今の医学教育は主に西洋医療ですが、それだけでは改善しない症状が統合医療を施すことによって軽快した症例を篠浦塾のセミナーで示してくださいます。そして特筆すべきは篠浦先生が開発された脳活用度診断により、自分の脳のタイプを知り幸せに生きる「脳」の使い方を学ぶことができる点です。西洋医療でないと太刀打ちできない疾患は山ほどあり今後も必要な医療であることに変わりはないのですが、予防医療を継続し、よい脳の使い方をすれば癌や認知症を含む生活習慣病、精神疾患のリスクを減らすことができるでしょう。地域医療の使命は、病気にならないよう予防医療の視点でアドバイスし、病気を発症してしまったら根本原因を説いて統合医療で治療を行う。これらにより人々の心身を健やかに導くことだと思います。
乃木坂ウェルネスに入ったきっかけ
既存の医療従事者でない方たちがどういうことをやっているのかという興味と木曜日は医療従事者が集まっているので、そういう方たちと繋がりたい潜在意識から入りました。当院は統合医療を取り入れ始めたばかりのため付随する業務で慌ただしく、乃木坂ウェルネスへの参加がなかなか叶わないのですが、地域医療の使命としての統合医療、という観点からの発信場所として最適だと思っています。このような場を提供していただきありがたく思います。
カテゴリ:統合医療インタビュー