2025年11月21日
国内「統合医療」の 第一人者
川嶋 朗 医師に聞く

統合医療は人を幸せにする医療、学びと実践を。
今、必要な医療とは?
~統合医療とその教育・啓発~
川嶋先生と統合医療の歴史
片平:12年ほど前に私とPMC社長大谷憲氏の共著である『100歳まで元気で ぽっくり逝ける眠り方』の推薦文を川嶋先生からいただきましたね。
その節は本当にありがとうございました。本日は改めて統合医療についてお話をうかがいたいと思います。
いつ頃から統合医療は注目されるようになったのですか?
川嶋:西洋医学、補完代替医療、個人の価値観、人生観など、全部をカバーする理想に近い医療が統合医療です。通常の医療とそうではない治療、肉体と精神、細部と全体、集団と個、客観的データと満足度重視という形で統合したものです。
2000年を過ぎた頃から、通常の医療を混ぜた「統合医療 (integrative medicine)」という言葉が世の中で言われるようになってきました。
米国では2014年に、CAMという「国立補完代替医療センター」が「統合」という言葉を入れ「米国国立補完統合健康センター」という名前に変わっています。
日本における統合医療の発展
片平:日本における統合医療の歩みを教えてください。
川嶋:日本でも2000年初期に「統合医療」という言葉ができました。その頃は世界と歩調を一緒にしていたと思います。ところが以後、法的規制や進捗がなさ
僕も統合医療に携わってすでに20数年が経ちましたが、この国で統合医療の概念を啓発するのは難しいと感じることが多かったのです。というのも実は、2017年に僕は統合医療学会を開いたのですが、その時点では未来を見い出せずにやめてしまったという過去があるからです。
しかし今年、やっと一般社団法人「日本臨床統合医療学会」を設立することができました。この学会には、臨床ができる人たちに入っていっていただき、国内外の医療機関や研究機関との連携を深め、統合医療の未来を築いていくことを目的にしています。
長生きする日本人にとってなぜ統合医療が必要なのか?
川嶋:今、「人生100年時代」といわれていますね。日本人は長生きになりました。これには急性疾患や感染症を治してきた西洋医学の恩恵は大きく、素晴らしい功績を残してきました。ところが長生きすることで、加齢に伴う原因(敵)のわからない症状に苦しめられ、治療の手段が見つからない患者さんも増えています。
というのも西洋医学は分析医学ですから、臓器別に診断や治療を行っています。しかし臓器は全て繋がっているわけです。だから臓器別に診断する西洋医学では、複数の部署で診断せざるを得ず、まるで「たらい回し」のように診断や治療が行われます。これでは患者さんとしても負担が大きいと思います。
昨今では Quality of Life(QOL /「人生の質」「生活の質)という概念が重要視されていますが、この概念を含んでいる通常医療はほとんどないといっても過言ではないでしょう。そこでQOLの概念が入っている医療を求めると、補完代替医療が考えられます。
QOLを大切にする補完代替療法と世界各地に伝わる伝統医学
片平:補完代替療法について教えてください。
川嶋:標準治療を補うための補完医療と、標準治療の代わりに行う代替医療をまとめたものが補完代替療法です。
漢方、鍼灸、健康食品、サプリメントなどが含まれ、病気の緩和やQOLの向上を目的とするものです。補完代替医療を言い出したのがアメリカです。
1992年からNIH(アメリカ国立衛生研究所)の中にこの部署を設けています。また現代医学が成立するずっと以前から世界各国で発展し、利用されてきた伝統医学というものもあります。
これには薬草、瞑想、食事療法などもあり、インドのアーユルヴェーダや中国医学なども含まれます。また心身相関療法なども入ってきます。
ほかには波動療法、O-リングテスト、エドガー・ケイシー療法、ロボット、人工知能(AI)などもあります。
このようにさまざまな医療を統合して治療をする「統合医療」は、一人一人の人生や価値観に密接に関わってくるものだと考えられます。
統合医療は人を幸せにする医療
片平:単に病気を治癒するだけではなく、生き方をも尊重するということですね。
川嶋:どのような人でも、独自の人生観や価値観を持っているわけですから、その人がどういう人生を歩んでいきたいのかを尊重することが大切です。
そして、どのような人でも100%、「死ぬ」という事実は変わらないのですから、どのような死に方、つまり生き方をしていくのかということを大切にして、その概念を患者さんと共有し、治療をしていくものを、改めて「統合医療」と言うのではないかと思っています。それは理念であり哲学であり、概念でもあるのです。
ですから一言で言い換えるとするならば、統合医療とは、「人を幸せにする医療」ともいえます。もっと言うと、「死ぬときの後悔を最小限にする医療」でもあります。その人の哲学や生き方を実現するための医療ともいえるでしょう。
統合医療を希望する患者さんに対して
片平:先生はどのような場合、統合医療を開始されるのですか?
川嶋:最初に患者さんの希望があります。通常医療だけでは治療ができない場合などに、患者さんは通常医療と補完代替医療の併用を希望することが多いわけです。
つまり西洋医学に限界を感じている人が統合医療に希望を見出すということですね。そこで私も、補完代替医療が必要だと思った場合、その治療をしている先生をご紹介します。
片平:補完代替医療を求める患者さんと通常の西洋医学のドクターの間で何か問題が起きることはありますか?
川嶋:西洋医学の先生方の中にはときたま補完代替医療を嫌っている場合があるので、患者さんも西洋医学の医師に内緒で補完代替医療をすることがあります。
一方、補完代替医療の提供者が「西洋医学なんてやめてしまえ」と拒否する場合も結構あります。このような時は両者の考え方を融合する必要があります。
また反対に患者さんの中にも、単に「通常医療が嫌い」という理由で、西洋医学や通常医療を断固として断る方もいらっしゃいます。このような場合は、通常医療のいい面もあるという話をしながら診療を行うことにしていますが……。
患者さんには勉強を勧める
統合医療/補完代替医療関連の書籍
片平:先生から統合医療をお勧めすることはあるのですか?
川嶋:僕は普段の診療で患者さんたちから、「どのような補完代替医療や伝統医療などの治療をしていいのかわかりません」と問われても、こちらからは積極的に何かを提供することは絶対にしません。
その理由としては、私から提案した途端に患者さんからの「依存」が生じてしまうからです。そしてその治療がうまくいかなかった場合、その方は「統合医療」に対して悪いイメージを抱くでしょう。
だから「一緒に勉強しましょう」と言って僕が書いた書籍を読んでもらいます。
本には、さまざまな医療のことが客観的に書いてありますから、「この本で勉強された中から興味があるものを教えてください。その内容を細かく説明しましょう」という話をしています。
患者さんからの具体的な希望や質問があって初めて、その有効性、安全性、危険性、そして、かかる費用なども全てお伝えすることにしています。患者さんがそれを十分に理解した上で、「一緒にやりましょう」と一歩を踏み出すわけです。
統合医療の果たす役割
片平:統合医療の果たす役割を具体的に教えてください。
川嶋:それぞれの疾患別に考えられると思います。第一に通常医療では治癒できない末期がんなどの患者さんに対する取り組みが挙げられます。西洋医学のみでは限界があると判断された時などです。次に神経難病です。現状の医学で治療ができるのはパーキンソン病くらいで、他の神経難病はほとんど治療ができないといわれていますが、統合医療を使って治療ができると思われます。
ほかには膠原病の治療もできます。西洋医学では免疫抑制薬を使い続けるので、専門家は薬を止めることはできないと思っていますが、本当は止めることができます。実際に治している方が複数いますし、免疫抑制薬も全て切れている人がいるのです。膠原病は治る病気といえます。
片平:患者さんにとって救われる話ですね。
川嶋:遺伝病はある意味では仕方ないと思われるかもしれませんが、その患者さんが元気に生きていけるような治療ができればよいのではないでしょうか。そういう土壌を切り開いてあげるのも、これからの医療の役割ではないかと思います。

現代に多い慢性疲労症候群と不定愁訴の数々
川嶋:昨今、多いのが症状があり、診断基準が決まっていても、これといった治療方法がないものです。例えば慢性疲労症候群です。疲れるだるい、動けないという症状で悩んでいる方がいます。
また線維筋痛症という疾病は、原因不明ですが、相当な痛みが出るものです。これも診断基準が決まっているのに治せなくて患者さんを苦しめています。
さらに検査異常のない「不定愁訴」と呼ばれるものがあります。これは病院へ行って検査をして「どこも悪くない」と診断されたときから始まります。でも患者さんは、明らかに何か日常生活に不都合な症状があって困っているわけです。
検査結果に異常な数値が出ない場合、通常医療の面からは何も施すことができないのが通常医療の限界です。
片平:患者さんにとっては、治療ができないので困惑しますね。
川嶋:通常医療の検査で異常がなくても補完代替医療の診断体系を用いれば治療が可能となることは少なくありません。例えば漢方医学やホメオパシーなどを用いれば通常医療の検査で異常がなくても治療が可能なものも多々あります。
生活習慣病でよくある医師の言葉
川嶋:医師が「血圧や悪玉コレステロールの数値が高いから、薬を飲まなければいけません」と言うことがありますね。長い間、医師も患者さんも当然のこととして、このような会話をしてきたかもしれませんが、よくよく考えればおかしなことです。
なぜ医師が患者さんの身体のことを決めつけるのでしょうか?
僕は、平均寿命を過ぎた方で高い血圧の数値が出たときに「飲まなければいけません」とは言いません。余命1ヶ月といわれた方に対しても言いません。
このような方は飲もうが飲むまいが遅かれ早かれ死ぬと考えるからです。
もちろん患者さんのほうから「血圧を下げたい」と言ってくる場合があれば、その方の希望をリスペクトします。
患者さんはそれぞれの考え方や価値観を持っているはずです。そこを無視して診断し、治療を勧めるのは医師の価値観を押し付けているだけなのです。
お任せ医療とエクスキューズ医療
川嶋:一般的に今の日本の医療は完全に「お任せ医療」だと思います。
患者さんはご自身の身体のことなのに、医師に頼りすぎてしまいがちです。
「身体のことはわかりません。先生に全ておまかせします」という「医者任せ」の姿勢が多く見られます。確かにひと昔前なら情報も限られていたでしょう。
しかし現代では書籍や雑誌、インターネットなどでも情報を検索することができます。玉石混合のきらいはありますが、自分でいろいろ調べることができます。ですから本来ならば、自分の身体や治療方法のことなど、基本的なことだけでもいいので、勉強できるでしょう。
それなのに相変わらず全面的に医師に依頼する風潮があります。だから医師が「しなければいけない:must」という言葉を使うし、それが当然になっています。また「エクスキューズ医療」というのは医師側が使う「いいわけ」です。医師は「手術では取りきれません」「この治療は延命にしか過ぎません」「再発しないとは限りません」「可能性は否定できません」などと常に言い訳を伝え、過剰な画像診断をしたりして、ある意味で、自分を守っているのです。
日本人の健康に対する意識の低さ
川嶋:このような状況は日本人の健康に対する意識の低さにもつながります。
OECD(経済協力開発機構)で出している1999年のデータですが、日本の平均寿命はOECD加盟国の中で世界最長です。
加えて「回避可能な死亡率」すなわち「医療が充実しているから死ななくて済む国」という調査でも、日本は世界のトップクラスです。さらに慢性疾患の罹患率は5.7%。数字だけ見ると多いように感じますが、実際にOECD加盟国の中で日本は罹患率が低いという結果です。
ところが「あなたは健康ですか?」という質問に対して、日本は38カ国中、韓国に次いで下から2番目となっています。つまり多くの日本人は自分が健康だとは思っていないようです。
片平:健康に必要なものは何ですか?
川嶋:健康の3要素が運動、休養、食事です。OECD加盟国で2万8000人を対象に1996年に調査された結果ですが、「十分に睡眠を取っていますか?」「健康的な食生活を送っていますか?」「定期的な運動をしていますか?」という問いに対して、日本人の睡眠はワースト3位。食生活も運動もワースト1位でした。
この調査結果を見て、日本人には自ら健康になろうという意識が乏しいと推察されますね。
人々の意識が向上しなければ医療費は上がる一方
川嶋:日本人一人一人の健康に対するリテラシーが低いことが、結果、医療費の増加につながります。
2024年度が48兆円で、23年度から1.5%増えています。2025年度は54兆から60兆に達すると見込まれています。
しかも、この医療費の中には介護費も生活保護費も救急車の出動費も入っていません。ちなみに米国で救急車を呼ぶと、1000ドルくらいの費用がかかりますが、日本では無料です。だから、タクシー代わりに使う人も出ています。
このようなことをやっていたら、日本の未来はどうなるのでしょうか。
平成の初期は250兆くらいの赤字国債でした。平成の終わりには1000兆円近くまで行きました。2025年3月末時点で約1323兆余りといわれます。
これから我々の子供や孫たちが大きな負担を抱える未来が見えているのです。我々はもっと自分の健康のことに責任をもつ必要があるのではないかと思います。
統合医療アドバイザーになりませんか
片平:確かに多くの方に健康に対する考え方や統合医療に対する正しい知識を学んでいただく必要がありますね。
川嶋:統合医療を正しく発展、普及させるため2025年日本臨床統合医療学会を設立しました。現在高等教育機関で初めて統合医療の勉強ができる教育機関として神奈川歯科大学で統合医療の講座を展開しておりますがこのプログラムを学会にも適用することを考えています。
統合医療の概念と補完代替医療を1年で学べるプログラムです。講座修了者で統合医療の概念を完全に共有された方を日本臨床統合医療学会の統合医療アドバイザーに推薦させていただきます。
このプログラムはいずれ大学院で正式に学位の取れるものに昇格させたいと考えています。
統合医療を本格的に学びたい方には、ぜひとも受講していただきたいですね。
片平:それは素晴らしいですね。多くの方に学んでいただければ、日本の未来も変わることでしょう。

1957年生まれ。東京有明医療大学教授、東洋医学研究所付属クリニック自然医療部門担当、医学博士。北海道大学医学部卒業後、東京女子医科大学入局。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院、東京女子医科大学付属青山自然医療研究所クリニック所長などを経て、2014年4月から現職。日本統合医療学会理事。
「統合医療」の視点から、QOL(人生の質)を尊重し、さらにQOD(死の質)をも見据えた、患者目線の診療姿勢で知られる。著書多数。近著に『「血流たっぷり」で今の不調が消える(日本文芸社)、「がんは自然に消える」(宝島社新書)、「病気の9割は「あ・い・う・え・お」で防げ!』(創英社/三省堂書店)などがある。
統合医療SDMクリニック
統合医療SDMクリニックは、日本の統合医療第一人者である川嶋朗医師による、最先端の充実した統合医療診療を行っています。個人の年齢や性別、性格、生活環境、さらに個人が人生をどう歩みどう死んでいくかまで考え、西洋医学、補完・代替医療を問わず、あらゆる療法からその個人にあったものを見つけ、提供する“受診側主導”の医療を提供いたします。
東京都港区赤坂2-8-13赤坂こうゆうビル5階
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日本臨床統合医療学会
日本臨床統合医療学会は、科学的根拠に基づく研究教育臨床を通じて、西洋医学と補完代替医療を融合し、個人の価値観や死生観に寄り添う統合医療を推進する専門学術団体。疾患治療だけでなく、健康維持やQOL向上にも貢献。
*理事長・川嶋朗先生による講座や講演も含め、統合医療に関する最新情報を随時発信
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カテゴリ:統合医療インタビュー












